2006年05月16日

「読み聞かせ」のガイドラインの矛盾点〜その2〜

2.気になるところ。
 いくつかのブログその他でこの話題が取り上げられております。作家の著作権の保護について正当であるという見解、利用者側の萎縮を気にする見解いろいろあるようです。
今回は純粋に著作権法から、「この表現変じゃないか」と言うところをいくつか申し上げたいと思います。

 まず、「出版権」と言う言葉です。
 加戸先生の逐条講義*1には、出版業界において「出版権を取得した」というと「著作権者から著作物の独占的複製許諾を得た場合」とか、「印刷・出版に関する複製権の譲渡を受けた場合」と言う意味に実務的に用いられており、その場合は「債権的権利とか著作権の支分権としての印刷、複製権のことをさす」とあります。一方著作権法に規定される「出版権」とは「著作物を出版することに関する排他的権利である出版権」を「出版社に設定すること」です。そして出版社とは「その著作物を・・・出版することを引き受ける者」であり、「出版とは・・・その複製物を刊行物として発売・頒布することを意味」しているとあります。
  さらに「「出版権」は頒布の目的を持って複製する権利」であると解説されています。
つまり、業界慣習としての実務的意味では「出版権」=1.著作物の独占的複製許諾権、2.出版複製譲渡権、著作権法の意味では「出版権」=出版することの排他的権利、ということです。
 とすると、実務的な意味の1「独占的複製許諾権」以外にこのガイドラインに記述されている「出版権に抵触」と言うことはありえないのではないかと思われます。なぜなら「読み聞かせ」は頒布目的の出版ではありませんし、出版に関する複製権にも該当しません。
 つまりガイドラインでは「絵本の拡大使用が出版権に抵触」と記載されていますが、「読み聞かせ」は頒布目的ではないのでそもそも「出版権」とは関係ないですのでまったく当てはまらないと考えられます。「出版権=独占的複製許諾権」である場合に限り、A出版社の独占的複製権の侵害に該当する可能性はあると思われます。
 でもそれなら、「出版権」が指すところは出版業界の慣習的な用語だと言うことを記載すべきでしょう。普通の人が「出版権」って聞いたら単純に「出版する権利」と思うでしょうし、著作権の知識がある人なら「著作権法」で調べるでしょうが、市井で「出版権=独占的複製許諾権」と思う人はほとんどありえないと思います。

 次に「著作権者」と「著作者」の混同が上げられます。
 著作権法に則って著作物の適法利用についてのガイドラインであると言うのであれば、用語は正しく使用したほうがいいのではないかと思います。特に「お話会・読み聞かせ団体等による著作物の利用について」(2ページ目)最後の段「…著作物に改変等を加え使用したいというときは、全て著作権者の許諾が必要・・・」とありますが、著作者人格権は著作者の一身専属であり、著作権者の許諾ではなく、著作者の許諾であると思われます。
 また、「全て許諾が必要」とありますが、著作権法上においては同一性保持権であっても「やむをえない改変」のときは認められています。「そのような例外的規定を記載すると利用者が混乱する」と言うことを懸念しているのかもしれませんが、正しい利用を促すにはやはり例外的規定についてもきちんと記述すべきではないでしょうか。
 この「著作者」と「著作権者」の混同は、次の「営利の場合…」という頁の記載にも同様に見られます。

 それから不用意な略語を使うことも注意した方がいいのではないでしょうか。「A.保護期間のすぎた著作物」のうち「2.外国人の著作物」のところで「…翻訳者の二次的著作権がある場合」という記述があります。二次的著作権ってなんですか?「二次的著作物の著作権」の略でしょうか?一般名詞としては特殊すぎるし、著作権法の用語としては舌足らず。「二次的著作権」と書いて理解できる人は著作権法に詳しい人が「ああ、この意味かな」と推測できる程度ではないでしょうか。ガイドラインなんですから、もう少し丁寧に記述した方が良いのではないかと思います。

 さらに管理事業法との関係はどうなるのでしょうか。
 著作物については、「著作権等管理事業法」というのがあり、それぞれの著作物について著作権の管理運用をする団体が文化庁に登録できるようになっています。ちなみに著作権等管理事業法の第1号事業者は(社)日本音楽著作権協会(JASRAC)です。この著作権管理事業法はそれまで仲介業務法によって指定団体しか出来なかった著作物の管理運用を、登録制にし、著作物の管理運用についても広く公正な競争の元で行い、利用者の便宜を図ることを目的とした法律です。
 そして、この事業法に定められた事業者には著作物利用について、利用者への応諾義務があります。つまり、事業者に委託した著作物の利用は原則OKでしかありえないと言うことです。但し、対価の徴収がありうると言うことです。
 この点を踏まえると、このガイドラインの矛盾が見えてきます。
 このガイドラインでは「読み聞かせ」に著作物を使用する場合には、すべて各出版社宛(と私には読めますが、おそらく各出版社を通して作家にという意味でしょう、そう願います)に許諾を求めろといっていますが、事業者に委託している作家については、出版社に問い合わせる必要はないはずです。事業者に申請書を出せば使用は許諾されるのですから。事業者に著作物管理を委託していない作家で、かつ出版社に問い合わせ窓口を依頼している作家についてのみ、各出版社宛に申請するということになるのではないでしょうか。
 事業者に委託している作家、していない作家等の一覧あるいは、問い合わせ先まで記載してこそガイドラインと言えるのではないでしょうか。
 この点については文芸の著作物についての事業者のご意見をお聞きしたいところです。

 そして最後にこのガイドラインを策定した団体には、どのような思いがあるのでしょうか。「円滑な利用のために」作成したとすれば大変結構なことです。これを見てみんなが気軽に手軽に、しかし権利をきちんと守って「読み聞かせ」出来ればどんなにすばらしいでしょうか。でもそのような立場に立ってガイドラインを策定したのでしょうか?
 「やむをえない改変」についても、「著作権等管理事業法における応諾義務」についても、作家の所属についても一切記載しないで、「権利侵害になる」「出版社の許諾をとれ」と言う姿勢は、あまりにも横暴ではないでしょうか? 
 どうして、著作物の利用について、権利者は二言目には「侵害」「侵害」というのでしょう。どうして「こうやったら使えます」ということを、現状に即した事例で簡単に沢山列挙しないのでしょう。どんなにきれい事を言っていたって、「作り手と渡し手が手を携えて」といったって、使える方法を「互いに」考えていかなければ、どんなに長い手があったとしても携えることはけっして出来ないのではないでしょうか。

(E)

 *1著作権法逐条講義第4訂新版427頁、433〜434頁、437頁。
posted by 著作権教育フォーラム at 12:05| Comment(0) | TrackBack(1) | コラム
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