2006年11月28日

「禁止事項の学習から、利用方法の学習への転換」(その3.これからの著作権教育のために)

 04年からの調査、イベントの開催等を通じて、今後の著作権教育について私が強く感じることは、著作権侵害、肖像権侵害といった、禁止事項を羅列することを中心とした指導では、結局は著作物の借用を避けるばかりで、著作権の本質の理解には到らないということです。最近は著作権侵害という違法行為についての報道だけでなく、権利保護期間の延長など、著作権に関する様々なニュースが報道され、それによって教育界はもちろん、一般的にも著作権についての関心が高まっていますし、権利処理についても高い関心がもたれています。
 今年のイベントで記録映像を撮影いただいたビデオサークルの皆さんからも、 様々な具体的事例について質問をいただきました。自分たちで撮影したビデオにBGMを付け編集するということは一般家庭においても珍しくありません。旅行や子どもの運動会の様子をDVDに編集して…というようなことは普通に行われていると思います。その中で私的利用の範囲を超えるような利用法も増えているおそれがあります。この様な現状では、適法に著作物を利用する方法ということをもっと啓蒙していくことがますます重要になってくると思います。そしてその内容は具体的かつ実践的な知識でなければならいでしょう。このような社会的な必要性に応じるためにも、まず、学校現場においても、「著作権」についてはできれば避けて通りたいという否定的な感情を、根本的に改めなければならない時期に来ていると思います。大切なことは許諾実務を習得するということではなく、なぜ許諾がいるのかという著作権法の基本概念の習得です。学校では無断で利用できたのに、同じことをお友達同士でやってはいけないのは何故かということ、「こうすると侵害になる」ではなく、「こうすれば使える」ということから学習することが重要です。
 誰もが簡単に著作者になれ、情報を発信できるようになったからこそ、著作権について大きく取り上げられるようになり、学校でも教えられるようになったのですから、次は適法に情報の発信をする方法を教えることを提案します。そして、権利者も利用者の無断使用だけを糾弾するのではなく、適法利用を促すにはどうしたらいいか、逮捕、裁判というネガティブキャンペーンではなく、使いやすい仕組みについて提供する時期ではないのでしょうか。権利者へこの様な提言のためには、まず利用者が現状の許諾システムがわかりにくいとことや、使用料が必ずしもリーズナブルであると言えないということを、きちんと発信していくことが必要だと思います。特に学校教育においての著作物利用の重要性についてまず発信すること、その上で、本当に学校での著作物利用が権利者の利益を不当に害するのだと権利者利用者双方が納得できれば、合理的な「使用料」についての交渉を行う、この様なステップを踏めるような土台を作ることが大切ではないでしょうか。
 2年続けて行いました「実践!著作権」ワークショップでは、参加生徒自身が権利処理について学び、06年については参加生徒が直接権利者と交渉し、権利処理をする体験を積みました。そして、著作物の積極的利用を前提とした著作権教育は著作権に対する正しい理解に有効であり、広めていくべきだという感想を抱いています。さらに06年では05年での分析を元にこうした知識の習得を教師が行うことは可能であろうと考え、教師に権利処理実務を習得させる事を試みました。そして教師の感想も生徒同様、この様な取り組みを進めていくべきであるというものでした。
 私どもの取り組み以外でも、「著作権を体験させる」ということを実践しておられる先生方が増えています。今後は著作物の禁止事項の学習ではなく、利用のためにどうすればよいかということを中心にした教育が大切であると思います。

 著作権フェアでおこなったパネルディスカッションでは、権利者側からも、「学校教育現場にもっと使いやすい著作権の仕組みを提供しなければいけない」という意見が出さましたが、同時に「利用者もまとまらなければならない」ということを指摘されました。利用者の新しい流れに柔軟に対応する必要性を権利者が意識し始めているということが伺える発言であったと思います。しかし権利者の代表である権利者団体がどれほど良い仕組みを考えたとしても、利用者の代表がそれを評価しなければ、いつまでもお仕着せという感はぬぐえず、利用者の不満は不当な不満であったとしても解消されないでしょう。すべての利用者がまとまることは難しいかもしれませんが、先ずは著作物の利用が最も多く、最も必要である教育界が、まずはまとまった提言を出すことが重要ではないでしょうか。
 学校教育現場から著作権、権利処理について実践的な声を上げていくことを、私は強く提言していきたいと思っています。そして権利者団体との連携を教育現場自ら図る努力が必要であると常に考えています。

(E)

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2006年11月12日

「禁止事項の学習から、利用方法の学習への転換」(その2.内容)

 著作権教育に於いて体験型学習イベントというのは、恐らく全国初の試みです。このイベントにはいくつもの実験的要素を含んでいます。これまでの座学中心の講義から実際の制作過程を体験することへ、禁止事項の学習から、「どうすればつかえるのか」という利用するための方法の学習へ、そして、「権利処理」を行うこと、「権利処理」を行うための集中権利処理システムの構築などです。イベント開催に当たっては、ターゲットに併せてパイロット授業を行いました。05年は生徒中心でしたので、「権利処理を行う」ということを前提とした講義構成について、06年は先生が権利処理を行えるようにということを新たな目標としましたので、教員向けの講演をまず行い、そこでの反応や意見を参考にイベントカリキュラムを構築しました。
 これまでの多くの著作権教育についての研究や、情報モラルの研究は、教師あるいは生徒に対し違法か適法かを問い、著作権についての知識の有無を検証するというものでした。つまり、この利用法は適法か違法か違法の確認であり、「では実際に使う際にはどうしたらよいか」ということについては触れない、触れていても「個々の事例により権利者団体に問い合わせること」という事のみが記述されているだけです。そこでこのイベントでは、一歩踏み込んで、実際に権利処理をするということ、そのためにはどういう情報が必要でどのような知識が必要かということに学習の焦点を合わせました。
 このイベントは最終的にどの学校現場でも利用出来る様な汎用性を持った教材、カリキュラムの開発、そして学校での著作物利用を促進するためのサポート機関の設立ということを考えています。この様なことを念頭に置いてのイベントですので、参加者の意識調査が非常に重要になります。パイロット授業をはじめ、ワークショップ終了時、ワークショップの成果発表の場であるフェア終了時等、節目節目でアンケートを行いました。
 分析の結果、次のようなことが明らかになりました。なお、このイベントは「権利処理を通じて著作権を学ぶ」ということが主眼ですので、著作権の制限条項(例えば第35条)には該当しない状況になっています。

(1)著作権に対する意識
 本イベント及び事前のパイロット授業を通じ、単に権利や著作物について教えても、実際には知識として活用できていないということがはっきりしてきました。
 友人の朗読する作文や、ダンスシーンの音楽(数秒程度)が著作物であることは、通常の著作権学習でも説明されることなのですが、これらが著作物であり、権利処理をしなければならないということに驚いたという感想が複数見受けられました。
 著作権の知識が、具体的な例示、実際に他者の著作物を使用するという実践的過程を通じて、初めて必要な知識として獲得されるということを表しているのではないかと思います。

(2) 著作者としての意識の向上
 アンケート項目から自ら制作することでクリエーターの権利に目覚め、他者の権利侵害だけでなく、自らの権利を守るという意識の向上が伺えました。特に、個人分析でみると、クリエーターとしての意識は、作品の完成度の高いグループに強い傾向がありました。優れた作品を完成させることは自らの作品に対する権利意識を目覚めさせることにも有効であると考えられます。そしてこのことは、他者の権利侵害を防ぐことにもつながるものと考えます。

(3) 著作権及び権利処理学習の問題点
 権利処理、映像製作を通じて著作権についてはほぼ理解したとしながらも、アンケートでは全員が著作隣接権について解らなかったというショックな事実が判明しました。例えば、講義でレコード会社の権利と説明し、CD音源からの楽曲使用の原盤使用申請書を作成しても、JASRACとの違いがわからず誰の何の権利か理解できていないということです。楽曲使用はもっとも利用可能性が高いと考えられるため、この点の指導については改善の必要があると言うことがはっきりと解ります。

 この様な結果がイベントから見えてきました。次回は今後の著作権教育のあり方について思うところを述べてみたいと思います。

(E)

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2006年11月05日

「禁止事項の学習から、利用方法の学習への転換」(その1.背景)

 本日まで第22回日本教育工学会に出席しておりました。今回は学会発表した内容について少し申し上げます。
 「著作権学習の新たな視座:禁止事項の学習から利用方法の学習への転換」と題して発表いたしました。この発表は、私どもが最初に学校教育現場の先生方に対面式のインタビューをしたときの結果から企画された体験型著作権学習イベントの成果についての最初のまとめでもあります。

 04年に「著作権に関する教育現場の意識調査」を行ったとき、そこから見えてきたのは著作権を気にするあまり、著作物の利用について必要以上に消極的になる傾向と、一方で無意識の侵害をしている教師の姿でした。そして、調査に協力してくれた教師の全員が「何が適法で、何が違法か」を教えてほしいと思っていることも解ったのです。しかし、著作権に関する問題は、○と×ではくくることが出来ない、つまり、個々のケースで判断や対応が異なるという特質があります。さらに、この場合は適法、こちらは違法とわかったところで、では実際にどうすれば良いのかという実践的具体的な方法を提供するような機関、団体は現在の所全くといっていいほどありません。すべて個々の質問に回答するだけです。権利処理を自ら行う先生も増えてきています。権利者団体と交渉した経験を持つ先生方も沢山いらっしゃいます。しかし、その個々の先生方の知識や経験、ノウハウは他の先生方になかなか共有されにくい、というか、共有する環境がないのが現状です。
 適法な利用方法を教えないで、「これは違法です」とばかり教えている環境では、確かに違法利用は減ったかも知れないけれど、適法利用が促進されているわけではないという奇妙な状況を生み出しています。これではいけない。「著作権がコワイから利用しない」というのでは著作権法の理念に反します。「著作権処理は面倒くさいから、著作権フリーですまそう」というのも著作権の本来的意義が理解されていないということになります。学校は一定の条件の下著作権が制限され、著作物が自由に使える環境となっています。しかしそれはあくまで例外的な状況であり、社会においては通用しない事になります。
この様な現状から、私どもは実践的かつ実社会における著作物・著作権の実践的な扱いを体験することで著作権の現実的な意味を教えることを狙いとして、体験型の学習イベントを企画するに到ったのです。
 このイベントは、映像作品の製作を通して、権利処理を行う中で著作権について学ぶということが目的です。自らが作品制作することで、クリエータ=著作者となると同時に、例えば音楽をBGMとして使用するという他人の著作物の借用を通じて、利用者としての立場も学びます。さらに、自分たちの作品を誰かが利用したいと申請してきたときには、かつて自分たちが利用者として権利者と交渉した時のように、今度は権利者として申請してきた人に「同じような態度」を取ることが出来ることを理解することが出来ます。利用者と権利者双方の立場に立ったとき、その二者をつなぐ「著作権」という物を体感することが出来るのではないかと思うのです。
 こうして、「実践!著作権」というイベントが企画されました。
 次回は体験型学習イベント「実践!著作権」の内容と分析をお話しします。
 なお、このイベントは05年、06年と開催しており、本年度の企画については「実践!著作権」ブログにて、ワークショップの様子を開設しておりますので、ご参照いただければと思います。こちらの著作権教育フォーラムブログに於いては、イベントの内容と分析について記載していこうと思います。

 (E)
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